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関連研究開発の状況

センシングデータ提示技術

現在使用されているセンサネットワークシステムの多くは、取得した環境情報を、一方的にユーザ端末に提示するか、データロガー等に機械的に蓄積する機能しか持たない。適用する範囲が小規模であり、用途も限定されている場合は、上記機能でも充分実用的であるが、大規模災害現場を継続監視するには、そのデータ量が膨大となり、迅速に所望の監視情報を取得することが困難になる可能性がある。また、災害現場の状況把握や救助活動を行うために、様々な情報機器やネットワークシステムの活用が考えられ、一部は実用化されている。
しかしながら、各システムは、独自開発されているため、相互接続できず、複数のシステムを災害現場に導入すると、個々のシステムの操作に手間取り、救助活動に必要な情報を迅速に得る妨げとなる。
上記を鑑み、本研究では、センシングデータに加え、既存システムから得られる有益情報を、各既存システムに手を加えることなく、ネットワーク内でマッシュアップし、ユーザに提示する機能を実現する。データマッシュアップに関しては、Google社等が特定サービスのデータへのアクセスをAPI(Application Program Interface)として公開し、誰でもそのサービスを組み込んだ新たなアプリケーションやサービスを構築できる枠組みを提供している。
しかしながら、それらを用いても、ネットワーク上のいかなるデータもマッシュアップできるというわけではなく、しかもデータマッシュアップ自身は専用サーバまたは端末で実行する形式である。よって、本研究が目指すネットワーク内に配置されたルータ装置が、データ転送に加え、データマッシュアップ作業を行うといった概念のものではない。

センサネットワーク技術

センサネットワーク技術は、今日ユビキタスコンピューティングを実現する重要技術としても注目され、研究開発が盛んに行われている。特に無線センサネットワーク(WSN)技術は、設置の容易さから屋外や移動物体を対象とした環境センシングに適し、災害・防犯・環境監視などへの幅広い応用が期待できる。
現在、WSNの研究は、ネットワーク構成法(データリンク層)とデータ収集のためのルーティング(ネットワーク層)に関するものが中心である。データリンク層では、各センサノードの電池消耗を抑えつつ安定したネットワークを構成するLEACH[1]やS-MAC(Sensor MAC) [2]などのプロトコルが提案されている。LEACHは、ネットワーク内でクラスタリングを行い、各ノードは自分の属するクラスタのヘッドにTDMA(時分割多元接続)でデータを送る。TDMAであるため、各ノードは自分の割り当て以外の時間は休止できる。
ただ、クラスタヘッドの全体ノード数に対する割合を既知としているため、実際には環境によって割合を適宜設定せねばならず、それが、転送効率や各ノードの電池消耗の度合いに影響を及ぼす。S-MACは,無線LAN(IEEE802.11b)のアドホックモードに似ているが、ビーコンを想定していない点とマルチホップ通信を考慮している点が異なる。S-MACは全てのノードのスケジュールが同期することを理想としているが、マルチホップでは同期時間の通知に時間がかかるため、一部改善策[3]の提案はあるが、依然それが困難な場合がある。
ネットワーク層に関しては,データセントリック[4]という考え方が特徴的である。センサネットワークでは、特定のセンサノードからの情報が欲しいのではなく、所望のセンシングデータを保有するセンサノードが要求に答えればよい。データセントリックを実現するには、ノード・アドレスやIDを用いて通信する従来型ネットワークとは異なるプロトコルが必要である。
Directed Diffusion[5]は、要求のfloodingを行うことにより、データセントリックネットワークを実現する。これは、DBを必要としないが,大規模なネットワークではfloodingによる通信量の増加が避けられない。上述した様に、センサネットワークに関する従来研究は、ネットワークを動的に構成するという柔軟性はあるものの、本研究が目指すセンサノードの「役割」が動的に変化する前提条件を加味したものはない。
さらに、既存手法は、学術的な検討のみが先行し、その多くは理想的な使用環境を前提としたシミュレーション評価または小規模な屋内実験に留まっている。我々が行った実機センサノードによる屋内及び屋外での実験によれば、その電波伝搬特性は環境により極端に異なり、個体差も大きい。
それらを踏まえると、実環境の使用に耐える既存手法は少ないのが現状である。しかも、建造物倒壊や土砂崩れなどの災害現場を監視するWSNでは、設置したセンサの一部が使用不能になる場合もあり、前述したWSNの通信プロトコル類を使用しネットワークトポロジの動的な構成や変更を行っても、システムとして所望の情報を取得できなくなる可能性がある。
本研究のねらいの一つは、上述した不測の事態にも対処可能なWSNを実現することにある。さらに、ユーザが所望するデータを得るために、ユーザ要求に従って、個々のセンサノードの「役割」を動的に変更する機能の実現も図る。そのために、各センサノードが果たすべき「役割」とその「役割」の発火条件や動作シーケンスを記載した「シナリオ記述」を用意し、それを各センサノードに無線通信を用いて送り込む。各センサノードでは、環境変化やユーザ要求を条件として、動的に発火条件を満たした「役割」を起動するメカニズムを実現する。文献[6]では、類似技術の提案を行っているが、「シナリオ記述」が限定的で、かつ、シミュレーションによる評価に留まっており、実現可能性に疑問が残る。本研究では、シミュレーション評価に留まらず、センサノードの開発を含む、真に実用性の高い技術の創出を目指す。

[1]W.Heinzelma, et al., “Energy-Efficient Communication Protocol for Wireless Microsensor Networks,” Proc. HISS’00, 2000.
[2]W.Ye, et al., “An Energy-Efficient MAC Protocol for Wireless Sensor Networks,” Proc. IEEE Infocom, 2002.
[3]W.Ye, et al., “Medium Access Control with Coordinated Adaptive Sleeping for Wireless Sensor Networks,” IEEE/ACM Trans. on Networking, Vol.12, No.3, pp.493-506, 2004.
[4]M.Esler, et al., “Next Century Challenges: Data-Centric Networking for Invisible Computing,” Proc. ACM/IEEE Mobicon’99, 1999.
[5]C. Intanagonwiwat, et al., “Directed Diffusion: A Scalable and Robust Communication Paradigm for Sensor Networks,” Proc. ACM/IEEE Mobicom’00, 2000.
[6]C. Frank, and K.Romer, “Algorithms for Generic Role Assignment in Wireless Sensor Networks,” Proceedings of ACM Conference on Embedded Network Sensor Systems (SenSys’05), pp. 230-242, San Diego, CA, USA, November 02-04, 2005